研究概要 |
ヒト疾患遺伝子や下等生物変異体の解析から明らかとなった遺伝変異の1/4程度は最終的にナンセンスコドンを有するmRNAを生じるタイプの変異であるらしい。ナンセンスコドンを有するmRNAはトランケート型のタンパク質をコードするが、実際にはこのようなタンパク質が検出されないことが一般的である。これはナンセンスコドンを有するmRNAが選択的に分解されていることに起因する。この現象は、nonsense mediated mRNA decay, NMDと呼ばれ、酵母からヒトに至るまで保存された真核生物に普遍的な機構であり、修復を逃れた遺伝子変異に由来する異常タンパク質に起因する毒性から細胞を守る、細胞の防御機構の一つである。これまでに我々は、高等生物におけるNMDの分子機構の解明を世界に先駆けて行ってきた。その過程で、hSMG-1という巨大プロテインキナーゼによるhUPF1というRNAヘリカーゼのリン酸化がNMDに必須の過程であることを見いだすと同時に、hSMG-1の活性阻害により、NMDを特異的に阻害することが始めて可能となり、NMDの生理機能やその操作の応用可能性を検証することが可能となってきた。本研究では、これらの研究を更に進め、NMDの分子機構の更なる解明と同時に、その成果を利用して、NMDの操作が、医学・医療面でどのような応用可能性を有するかを探る事を目的とした。 本年度は、hSMG-5,hSMG-6,hSMG-7という、線虫の遺伝学からNMDに必須であることがわかっていた遺伝子のヒト版の解析を通じて、これらにコードされるタンパク質hSMG-5,hSMG-7の機能を明らかとした。これらは、hSMG-1にリン酸化されたhUPF1に特異的に結合し、PP2Aというプロテインホスファターゼによる脱リン酸化を誘導し、この過程もまた、NMDに必須の過程であることを明らかとした。さらに、このようなhUPF1のリン酸化と脱リン酸化の過程で、hUPF1,hUPF2,hUPF3,や他の分子を含むmRNAサーベイランス複合体の存在を調べる新たな手法を開発し、それを用いて、この過程で、複合体のリモデリングが起きることを明らかとした。
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