難治性疼痛発現におけるATP受容体を介するグリア-ニューロン相互作用の役割

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 15209051
• 研究種目: 基盤研究(A)
• 研究機関: 国立医薬品食品衛生研究所
• 研究代表者: 井上 和秀 国立医薬品食品衛生研究所, 代謝生化学部, 部長 (80124379)
• 研究分担者: 小泉 修一 国立医薬品食品衛生研究所, 薬理部, 室長 (10280752)
• キーワード: ATP受容体 / 神経因性疼痛 / ミクログリア / P2X4 / 行動薬理学 / 脊髄後角 / アロディニア

研究概要

アロディニア(異痛症:触刺激など非侵害刺激を痛みと誤認識する病態)を示す神経因性疼痛動物モデルとしてラットの第5腰髄(L5)脊髄神経を結紮した後,その末梢側を切断する神経困性疼痛動物モデルを用いた。メカニカル・アロディニアの発現に脊髄内P2X受容体が関与するか否かを行動薬理学的手法で調べた。モデル動物の脊髄腔内へ,P2X4を阻害する2',3'-0-(2,4,6-trinitrophenyl) adenosine 5-triphosphate (TNP-ATP)を投与した場合、メカニカル・アロディニアはほぼ完全に抑制された。一方、P2X4を阻害しないpyridoxal-phosphate-6-azopheny1-2',4'-disulphonic acid (PPADS)では抑制は全く認められなかった。このようにP2X4の関与が示唆されたので、脊髄後角におけるその発現量を解析した。その結果,疼痛モデルではP2X4タンパク質の発現がアロディニア強度の経時変化によく相関して上昇した。しかも,P2X4受容体陽性細胞を同定したところ、それは神経細胞やアストロサイトではなくて、ミクログリアであることが判明した。ミクログリア細胞一個あたりで調ベた場合にもP2X4タンパク質の発現量が劇的に増えていた。さらに、P2X4受容体発現を遺伝子レベルで抑制するアンチセンスオリゴ(AS)を作製し,メカニカル・アロディニアに対する効果を検討した。P2X4AS髄腔内投与ラットではP2X4受容体タンパクとメカニカル・アロディニアの発現を同程度有意に抑制できた。これらの結果は,ミクログリアP2X4受容体からのシグナルがメカニカル・アロディニアを引き起こすのに必須であることを示している。初代培養ミクログリア細胞には,P2X4受容体とP2X7受容体が発現しているが、ATP(50μM)によるカルシウム上昇は選択的にP2X4受容体を介することが明らかになった。ATP(50μM)によりP2X4受容体を刺激したミクログリア細胞を正常ラットの脊髄髄腔内へ投与したところ,投与後5時間目にメカニカル・アロディニアが発症し、P2X4受容体をTNP-ATPで予め遮断しておくことで完全に阻害された(Nature 424,778-783,2003)。

研究成果

• [文献書誌] M.Tsuda, Y.Shigemoto-Mogami, S.Koizumi, A.Mizokoshi, S.Kohsaka, M.W.Salter, K, Inoue: "P2X4 receptors induced in spinal microglia gate tactile allodynia after nerve injury."Nature. 424. 778-783 (2003)
• [文献書誌] S.Koizumi, K.Fujishita, M.Tsuda, Y.Shigemoto-Mogami, A.Kita, K.Inoue.: "A dynamic regulation by astrocytic ATP of excitatory synaptic transmission in cultured rat hippocampal neurons."Pro.Natl.Acad.Sci.USA. 100. 11023-11028 (2003)
• [文献書誌] T.Moriyama, T.Iida, K.Kobayashi, T.Higashi, T.Fukuoka, H.Tsumura, C.Leon, N.Suzuki, K.Inoue, C.Gachet, K.Noguchi, M.Tominaga: "Possible involvement of P2Y2 metabotropic receptors in ATP-induced transient receptor potential vanilloid receptor 1-mediated thermal hypersensitivity."J.Neurosci.. 23. 6058-6062 (2003)
• [文献書誌] T.Suzuki, I.Hide, K.Ido, A.Inoue, S.Kohsaka, K.Inoue, Y.Nakata.: "Production and release of neuroprotective TNF by P2X7 receptor-activated microglia."J.Neurosci.. 24. 1-7 (2004)
• [文献書誌] M.Tsuda, A.Mizokoshi, Y.Shigemoto-Mogami, S.Koizumi, K.Inoue: "Activation of p38MAPK in spinal hyperactive microglia contributes to neuropathic pain hypersensitivity following peripheral nerve injury.."Glia. 89. 89-95 (2004)
• [文献書誌] S.Koizumi, K.Fujishita, K.Inoue Y.Shigemoto-Mogami, M.Tsuda, K.Inoue: "Ca2+ waves in keratinocytes are transmitted to sensory neurons : the involvement of extra cellular ATP and P2Y2 receptor activation."Biochem.J.. 379. 1-10 (2004)
• [文献書誌] 井上和秀: "慢性疼痛とミクログリア:ATP受容体の関与.痛みの基礎と臨床"真興交易(株)医書出版部. 93-101 (2003)