研究概要 |
昨年度、アロディニア(異痛症:触刺激など非侵害刺激を痛みと誤認識する病態)を示す神経因性疼痛動物モデルを用いて、メカニカル・アロディニアの発現に脊髄内P2X受容体が関与するか否かを行動薬理学的手法で調べた。その結果、脊髄ミクログリアに発現するP2X4受容体からのシグナルがメカニカル・アロディニアを引き起こすのに必須であることを明らかにした(Nature 424,778-783,2003)。ATPは,低分子量Gタンパク質Rhoファミリーの一つであるRacを活性化し,著明な細胞骨格変化とATP濃度勾配に向かった遊走を起こし、プラスミノーゲン等の栄養因子も放出する.さらに,IL-1β,IL-6およびTNF-αなどのサイトカイン遺伝子の誘導とそのタンパク質の合成,さらには放出まで引き起こす.そしてIL-6およびTNF-αの放出系には,MAPキナーゼファミリーの一つであるp38の活性化が関与していることも我々は既に報告した。そこで、本年度は、ミクログリアp38の活性化と神経因性疼痛の関係をより詳細に検討した。その結果,神経因性疼痛モデルの脊髄でミクログリア特異的に活性化されることを見いだした(Tsuda et al.,Glia 45,89-95,2004)。p38阻害薬のSB203580は,脊髄腔内へ処置することでアロディニアの発現を抑制した。このp38の活性化様式および阻害剤の効果は,同時期に報告された他の論文でも確認された。これらの結果より,p38が神経因性疼痛の発現に重要なミクログリア由来細胞内シグナル分子の一つであり,P2X4受容体やサイトカイン系との関わりが注目される。
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