昨年度までの研究で、1)味細胞のスパイク応答記録と分子発現との共解析システムの開発とそれによるデータ取得、2)受容体Tlr3、G-タンパクGgust、チャネルTRPM5のそれぞれのKOマウスの味神経応答の解析において一定の結果が得られた。すなわち、甘味応答味細胞はTlr3とGgustを異なる組み合わせで発現し、Tlr3-KOマウスの神経応答で複数甘味受容経路が示唆される結果と一致すること、SNAP25の発現は認められず、記録した細胞はシナプスを持たないII型である可能性が示唆されること、3種のKOマウスの味応答の比較では、Tlr3-KOのみならず、GgustおよびTRPM5-KOにおいても甘味応答は消失せず残存することから、複数甘味細胞内経路の存在が示唆されることが分かった。本年度は、細胞応答の解析は例数を加えより詳細な解析を行うこと、神経応答はTRPM5-KOマウスのデータの不足を補うこと、また単一神経線維のレベルの解析を加え、味細胞から神経線維への情報伝達特性を解析すること、さらに、味蕾、神経節細胞の分子発現の解析を継続し行った。その結果、応答が得られた細胞数90個で、発現分子の解析例が30まで達し、その結果SNAP25発現細胞は数個に留まり、多くはシナプスのないII型味細胞の可能性が高いことが判明した。単一神経線維の応答を解析し、その特性を比較すると、味細胞の特性とほぼ一致することが分かり、スパイク発生味細胞から味神経へ何らかの方法で情報伝達がなされている可能性が示唆された。TRPM5-KOマウスの解析では特に甘味応答の温度特異性が消失していることが判明し、その結果はNature誌に発表することができた。
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