研究概要 |
癌化過程のおける遺伝子発現プロファイルの変化をまず基礎的に検討するため、マウス(C57BL/6)に発癌剤である4NQOおよびベンゾピレンを投与し、経時的に舌粘膜上皮を採取して遺伝子発現プロファイルの変化と形態学的変化を検討した。また、ヒト正常粘膜上皮、白板症および口腔癌における遺伝子発現プロファイルをGeneChipシステムを用いて比較検討するとともに、発現変化が著しい遺伝子についてそれぞれの蛋白発現を免疫組織学的に検討した。その結果以下のような所見が得られた。 1)マウスに連日4NQOあるいはベンゾピレンを投与したところ、いずれも投与6週後には舌粘膜に明らかな上皮異形成が見られた。 2)経時的にマウス口腔粘膜上皮における遺伝子発現変化を検討したところ、発癌剤投与によって未処理群と比較して2倍以上の発現増強が見られた遺伝子は63個、2分に1以下に発現が減弱していた遺伝子は6個であった。特に特徴的な増強変化が見られた遺伝子は、SPRR2A, SPRR2E, SPRR2B, SPRR3などであった。これらのうちSPRR2AについてmRNAの発現レベルをRT-PCRで解析したところ、GeneChipによる解析結果と一意していた。 3)口腔白板症組織では正常組織と比較して8個の遺伝子に2倍以上の発現増強が見られ、10個の遺伝子に2分の1以下の発現減弱が認められた。これらのうちloricrin, keratin2Eおよびkeratin10の発現は癌化すると著しく減弱していた。 4)癌化症例における癌病変部と白板症部の遺伝子発現プロファイルを比較したところ、癌病変部では、loricrin, kallikrein, ketatin10遺伝子の発現が著しく減弱していた。 5)免疫組織学的にkeratin10の蛋白発現を検討したところ、癌胞巣部の中心部にわずかに局在しているのみであった。 6)kallikrein蛋白の発現も癌胞巣部にわずかに見られるのみであった。 以上の結果から、loricrin, keratin10, kallikreinなどの遺伝子発現プロファイルの変化が癌化の予測マーカーとなる可能性が示唆された。なお、遺伝子多型解析については現在検討中であるが、まだ特定の遺伝子を絞り込めていない。
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