研究概要 |
計算可能性の定式化や現実的な計算時間内で計算可能なものの定式化のように,計算理論の分野では,単一のプロセスを前提として,厳密に定義されたモデル上で実行される計算の可能性と限界に関して膨大な研究の蓄積があるが,相互に作用するプロセスの計算原理については殆ど解明されていない.一方,von Neumanの"自己増殖のモデル"やMinskyの"心の社会"などのように,単に与えられた問題を単一プロセスで効率良く解くという枠組みを越えて,学習,進化,知能等に関して,広い意味の計算と捉え,広範な分野に対して大きな影響を持つ研究が行われてきた.これらの研究に共通しているのが,エージェントと呼ばれる独立したプロセスが相互に作用し合い,全体として意味のある処理をするという枠組みである.本研究では,計算機上に実現可能なモデルのもとで,協調と競合のメカニズムを計算論の視点から解明する.これにより,独立した個別の情報機器が接続されたインターネットや現実の社会の経済の動向など,予め全体を設計してしまうことが不可能な巨大なシステムの振舞いを理解し,制御する方法論の基礎は確立される. 初年度に当たる今年度は,従来の計算モデルでも取りあげられる,プロセスの相互作用や学習によるアルゴリズム自体の獲得に関わる問題などに注目し,複数プロセスの協調と競合を解明する上で基盤となる知見を得た.すなわち,論理回路や決定木などの機能ユニットが接続された計算のモデル上の計算の過程を解析する種々の解析手法を開発した.これにより,0(log log n)個の否定ゲートを含む論理回路がNP完全問題を解くとき,指数関数で与えられたサイズが必要となることを導くとともに,エキスパートを接点に配置する決定木ブースティングアルゴリズムを開発した.
|