研究概要 |
本研究では,触覚を規範とする遠隔操作として,滑りやすいテーパー状の物体を把持し持ち上げるタスクを取り上げた.これにより,新たに触覚センサ内蔵ソフトフィンガと触覚ディスプレイを開発し,遠隔臨場感多指ハンドシステムを構築した.以下に得られた結果をまとめる. バイオミメティックな観点から,小型の触覚センサ内蔵ソフトフィンガを開発した.物体表面との摩擦に依存して表皮の横伸びが生じるため,内蔵したコイルセンサでせん断ひずみを測定することで,対象物の滑りやすさを推定した.また,摩擦状態に応じて感度よく皮膚が伸縮するように表皮にディンプル状の蛇腹構造を配した. 摩擦係数が小さいほど,より大きなせん断ひずみが生じることを確認した.また,非均一な皮膚構造を採用したことで,把持力が小さい段階で判別が可能であり,触れた瞬間に滑りやすさがわかる.さらに,せん断ひずみ速度に関する触覚情報からも摩擦状態が推定でき,マイスナー小体がひずみ速度に感応することとも:矛盾しない結果となった. ソフトフィンガでは難しいとされる接触中心も同時に検出可能であった.また,周囲から局所滑りが生じて,中心部の固着が破られ,最終的に全滑りに移行する現象も検知した.これにより,初期滑りの段階での滑りの予知が可能となる. スクイズ効果と呼ばれる気体潤滑作用により触覚情報を提示した.摩擦感が低減し,つるつるした触感が得られる.また,印加電圧を変化させることで,摩擦係数がほぼ0.1〜0.7の範囲で制御できた.なお,触覚と力覚との同時提示デバイスはあまり例がない. コイルばねに圧縮およびせん断が作用した際に素線に生じるモーメントおよび応力から,ねじり成分と曲げ成分の分離方式を新たに提案した.また,ひずみゲージの貼付に関する考察を行い,校正方法を考案した.これにより,より高性能な触覚センサの開発が可能となる. 本研究成果は,触覚情報の計測・伝送・提示の技術開発に寄与し得ると考えられる.
|