研究課題
音や音声の一部を消し雑音を挿入すると、欠落部が補われて聞こえる。この現象は音の補完現象と呼ばれ、カクテルパーティ効果(カクテルパーティなどで多くの人が同時に話しているときに特定の人の話し声を聞き取ることができる効果)に関係することが心理学的に分かってきている。この効果の脳内機構については分かっていない。昨年度はこの効果の脳内機構について動物実験を行って生理学的に調べ、聴覚皮質は音の欠落部に雑音を挿入すると雑音後の音の開始を検知できなくなるということを報告した。本年度はこの研究をさらに進め、音の補完現象が起きるのは雑音が補完される音をマスクする場合に限るという心理学的によく知られている現象について、生理学的に調べた。方法は昨年度と同じであり、モルモットの一次聴覚皮質(AI)とその周辺の高次聴覚野(belt領域)の活動を光学的計測法で計測した。音刺激には純音(PT)、ホワイトノイズ(WN)、バンドストップノイズ(BN:特定の純音をフィルターで除いた雑音)、無音区間(gap)を含む純音(PGP)、、WNを含む純音(PWP)、BNを含む純音(PBP)を用いた。PGPに対する活動ではgap後の音に対するon応答(R2)が現れ、PWPに対する活動ではR2が消失する。純音成分を抜いたPBPに対する活動ではR2が再び現れた。この現象はAIとbelt領域の両方で見られたが、WN挿入によるR2の消失とBN挿入によるR2の出現の程度差はbelt領域のほうがAI領域よりも大きかった。これらの結果は、音の補完が起きるためには雑音が補完される音をマスクしなければならないという心理現象に酷似している。また、その効果はAIよりも高次聴覚野で顕著である。今回の結果から、皮質におけるR2抑制機構が音の補完に関与するという我々の仮説の信憑性がより高まった。なお、音方向に関する皮質処理についても研究を進めている。
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