研究概要 |
本年度は,文脈横断型推論システムの核となる神経回路モデルおよび分散表現の統合原理について研究を行い,以下の成果を得た. 1.我々が開発した「選択的不感化」に基づく文脈表現が,層状ニューラルネットの情報統合に非常に有効であることが確認された.具体的には,2種類の独立な入力パターンの組合せに応じて出力が決まるという課題について検討したところ,従来の多層パーセプトロンには明らかな限界があったのに対し,本モデルはその限界を越えることができ,学習能力・汎化性能ともはるかに高いことがわかった. 2.脳の柔軟な類推能力が,モデルと同様な文脈表現および情報統合原理に基づいていることを示唆する知見を得た.まず,サルを対象とした生理実験で用いられた文脈依存的連想課題を学習・実行するモデルを選択的不感化原理に基づいて構成したところ,サルの下側頭葉で観測された特徴的なニューロン活動が再現されることがわかった.また,これまで説明が付かなかった特殊な生理データが,本原理によって綺麗に説明できることも明らかになった.更に,本原理に基づいて予測された視覚心理現象を検証する実験を行ったところ,その予測を支持する結果が得られている.このことは,本システムの可能性を間接的に示すものであると同時に,本研究を大きく進展させるヒントをもたらすものと考えられる.
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