研究概要 |
本年度は,昨年度までに構築したパターンベース推論システムの能力などについて研究を進め,以下の成果を得た. 1.システムの類推能力について数値実験などにより検討し,文脈横断的な類推のメカニズムを明らかにした.具体的には,軌道アトラクタモデルに選択的不感化法を適用することによって,アトラクタへの引き込みによる汎化だけでなく,学習した文脈と全く異なる文脈において軌道アトラクタが形成されることによる汎化が,文脈横断的な類推を可能にしていることを示した. 2.システムの追加学習能力について検討した.一般に,ニューラルネットに新たな知識を少し学習させるだけで,既学習の知識が大きく失われてしまうという現象(カタストロフィック干渉)が生じるため,知識を追加するたびに再学習が必要である.本システムでは,そのような現象が生じないため,効率的に知識を追加できることがわかった. 3.複数の推論モジュールを結合して,より複雑な推論を可能にする方法について検討し,動的不感化法を提案した.実際にこの方法で二つの軌道アトラクタモデルを結合し,その相互作用によって複雑な文脈依存的時空間パターン処理が行えることを示した. 4.システムの重要な原理である選択的不感化が,脳の文脈依存的情報処理に関する重要な器官と考えられる海馬において行われているという仮説を提唱した.また,これに基づいて構成した神経回路モデルによって,従来のモデルでは再現できない海馬のニューロン活動が再現できることを示した.昨年度までの結果も合わせると,このことは本システムがもつ,脳との原理的共通性および高い将来性を示すものと言える.
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