研究概要 |
本研究の最終的な目的は擬音語を用いた新しい音の感性的評価手法を確立することである。昨年度の実験では,擬音語からイメージされる音に対する印象やこれと元の音に対する聴取印象の差などについて調べ,擬音語によって音の感性情報をどの程度まで保持・伝達できるか検討した。本年度は,語尾に撥音や促音,長音を持つ2モーラの単純な擬音語(子音+母音+語尾)を用い,擬音語から想起される音に対する印象評定実験を行った。印象評定は15個の音色評価尺度(7段階)を用いSD(Semantic Differential)法により測定した。さらに,擬音語の音韻的特徴と想起される印象の関係をモデル化し,擬音語から音の印象が予測できるか検討した。2モーラの擬音語は「子音行+濁音・半濁音+拗音+母音+語尾」といった音韻パラメータに分解できる。これら22個の音韻パラメータに対する重みの線形和により印象の予測値が与えられると仮定し,林の数量化理論I類によって,音韻パラメータを独立変数,印象の予測値を従属変数としたモデルを構築した。分析から得られた各音韻パラメータの重みから,例えば「きれいな⇔きたない」尺度のモデルでは,子音行と濁音・半濁音の重みが大きく,ラ行を含む擬音語は「きれいな」印象,「濁音」を含む擬音語は「きたない」印象となる,などの各種の音韻パラメータと印象の関連が明らかになった。さらに,得られたモデルから昨年度の実験で用いた擬音語に対する各評価尺度の予測値を求め,擬音語ごとに評定値と予測値の相関を調べた。結果として多くの擬音語において統計的に有意な相関が見られ,本研究で得られた擬音語から印象を予測するモデルの有効性が示唆された。 また,周波数が周期的に変動するサイン音を用い,各種音響特性とサイン音としての機能イメージ,擬音語表現の関連について検討を行った。例えば,roughness(音の粗さの感覚)を知覚しはじめる帯域である変調周波数10〜50Hz程度では,第2音節以降がラ行の同一音節の繰り返しといった擬音語の特徴が見られ,かつ「呼出」のイメージが想起される,などの対応が見られた。聴覚が十分に追従して知覚できるような周波数変化によって,サイン音としての機能イメージを区別できることが示唆された。
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