本研究はコンピュータープログラミング学習の複雑な認知過程の実態を解明する理論を構成し、それに基づくことで現実的で効果的なプログラミングの学習教育環境をデザインすることを目的としている。 そのため、教授学習過程の事例を広範かっ詳細に収集し、プログラミングを学習する認知過程をこれまでになかった詳細さのレベルで問題にした。具体的には、大学のプログラミング教育の演習の現場における学習者の躓きのビデオ記録、随時行う小テストなど、プログラミング学習の実態の記録を系統的に整理して蓄積し分析の対象として利用できるようにした。このような広範に収集された事例の詳細の分析に基づくことで、これまで十分に取り上げられてこなかった、プログラミングの学習の背後にある複雑な認知過程の実態を分析することを可能にした。このような分析の結果、プログラミングの認知過程を多様な表象の重ね合わせとして捉える枠組みを基礎に、プログラミングに直接関連する概念だけでなく、より一般的な認知機構(例えば、推論や習熟の程度など)と連携させた統合理論を構築した。この理論を基礎に、現実のプログラミング初心者が示す複雑で不安定な学習、理解の実態をその背後にある多様な表象が相互作用する認知過程から解明することができた。 上記のようなプログラミング学習の認知過程の実態の解明に基づき、どのような学習環境がプログラミング学習に効果的であるかという検討を進めた。学習、理解の部分的な成立というプログラミングの学習の実態に基づいた習熟の過程に配慮した学習教育環境をウェブ上に構築した。特に、学習の躓きに即応できる、必要な情報を学習者が自分から取りにいける学習環境を構築し、教育実践の中で、部分的にではあるが、その有効性を確かめた。
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