研究概要 |
神経細胞の発火,心拍,降雨,地震,金融商品の取引発生など,さまざまな点過程現象に対して共通に適用可能なデータオリエンテッドなモデル構築手法とその結果であるモデルを一つのライブラリーとして蓄積するという本研究の目的に沿って,初年度である本年は,神経細胞の発火と金融商品の取引発生に的を絞って研究を進めた.神経細胞の発火に関しては,本理工学部の岡浩太郎助教授の研究室と共同で,ミミズの神経細胞の発火データからそれら神経細胞の接続パターンを推定するという問題に対して,どのような点過程モデルが構築可能であるかという観点から探索的な研究を開始した.しかしこのように互いに一定のラグをもって接続している系の場合,これまで統計学で典型的に用いられてきた多変量点過程では説明しきれない部分が多く,実験やその測定の仕方を含め,データそのものに戻ってモデルを構築しなおす必要に迫られ,現在精力的に取り組んでいる最中である.一方,金融商品とくに外国為替の取引発生に関しては,最尤法によってクラスタを見つけだすアルゴリズムを開発したことにより,各クラスタ内では強度が一定のポアッソン過程として十分モデル化可能であることを確認できた.しかしクラスタ間隔自体はランダムなポアッソン過程としてモデル化するには無理があり,よく用いられるランダムな点を中心とするポアッソン現象としてのクラスタ点過程をそのまま適用することは適切でないことが判明した.その理由としては,金融商品の取引という現象そのものの特性と,時間という方向性の明確な場合の点クラスタという違いが大きい.なお,各クラスタ内での値の分布は,背後にブラウン運動を想定したときの,ポアッソン過程に従ってランダムなサンプリングを行ったときの分布である両側指数分布によく適合することが確かめられた.また,ブラウン運動の標準偏差とポアッソン過程の強度の間には一定の関数関係があることも発見した.
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