研究課題
3年目の取り組みは、1、2年目に開発した理論モデルおよびシミュレーションツールと、2年目に開発したモデル測定系および改良型WPCR反応とを組み合わせた、2つの段階に分けられる。第1段階では、WPCR反応効率についての統計熱力学的な予測の実験検証が完了した。非目的構造存在下における目的構造形成効率の予測能力を評価するため、競合するDNAヘアピン構造形成をモデル測定系とした。反応のシステムレベルでの挙動を、FRETを用いた測定により解析した。理論モデルによる予測と実験結果を、2つのヘアピン構造それぞれ単独での融解過程、および競合させた反応において比較した。予測と実験結果がよく一致し、モデル予測にもとづいた反応のシステムレベルでの制御やプログラミングの実現可能性が示された。この結果は、WPCR反応だけでなく、一般的なDNAを用いた反応システム開発にとって極めて重要である。第2段階では、WPCRを改良した「Displacement WPCR(DWPCR)」を開発し、実験的に検証した。DWPCR法では、ヘアピンDNA上のプライマー伸長とそれにともなう鎖置換によって「ルール配列」を保護し、「バック・ハイブリダイゼーション」を無効化する。基礎的な実現可能性を、FRETとPAGE実験により確立した。WPCRおよび他の改良法である「PWPCR」では、予測されたポリメラーゼとの衝突あたりの状態遷移効率はそれぞれ、およそ0.001%と1%であり、100%近い効率が期待できるDWPCRは根本的な発展を意味する。さらに、反応時に温度サイクルが不要となり、生体内での応用が可能になる。PWPCRと比べて、タンパク質を不安定化する非コード配列の翻訳が起こらず、エキソン・シャッフリングを行う「XWPCR」法へ利用可能である。DWPCRは、超並列生体分子計算のための、高効率で汎用的な標準手法として期待できる。
すべて 2006 2005
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