研究概要 |
脊椎動物の中枢神経系は領域特異的に背腹軸に沿った極性を有している。近年、中枢神経系の腹側領域のパターン形成にShhが決定的な役割を果たしていることが明らかにされてきた。一方、背側領域の中枢神経組織の発生制御解析は腹側領域に比して遅れている。中枢神経系背側領域の初期決定に関わる分泌性シグナルの分子実体と誘導源の解明のため、我々はこれらの観点からアフリカツメガエルの系を用いてスクリーニングを行い、前脳を含めた中枢神経系の背側領域の分化を誘導する新規分泌性シグナル因子Tiarinを同定した。本研究では、Tiarinによる中枢神経系の背側領域分化誘導の制御機序を胚・細胞レベルで明らかにするため、Tiarinタンパクがどのようなシグナル伝達系の活性化または抑制によって、細胞分化を制御しているかを明らかにした。まず、Tiarinは既存の背腹軸に関与するシグナル(Shh,Wnt,BMP)との強い相互作用によって働くのかを検討した。その結果、これらのシグナル因子と物理的な結合や受容体の競合などの直接的な相互作用は認められなかった。さらなる細胞内シグナルの検討から、Tiarinとこれらの因子のクロストークは下流シグナルのレベルのみに認められることが判明した。シグナル解析のためにはTiarinタンパクの大量作成が必須であり、293細胞を用いてmg単位の産生に成功した。このタンパクを用いての結合実験から、受容体の多く発現する細胞を複数同定した。プルダウン法により、結合膜タンパクを精製し、プロテオミクス的手法によって解析を行い、また、ES細胞の試験管内分化系を用いて、Tiarinタンパクの神経分化への影響の解析を予備的に行った。
|