大脳皮質は6層からなる細胞構築を持ち、神経回路はこの層構造に基づいて形成される。本研究では、その回路形成を担う分子を同定し、その形態的あるいは機能的意義を解析することを目指した。層特異的な遺伝子探索を行うためには、生後7日目ラットより5層特異的なcDNAライブラリーを作製し、differential screening、in situ hybridization法によって5層細胞に特異的に発現する遺伝子を得た。大脳皮質第5層cDNAから第4層cDNAをサブトラクションすることによって得られたクローンNo.262は、層形成の完了した生後7日目のラット脳切片上で大脳皮質第5層の一部の錐体細胞にのみ発現することがわかった。このクローンは塩基配列解析の結果、Etsファミリーに属するER81のラットホモログであることが判明した。まず、ER81の5層での局在に領野特性があるかどうかを調べたところ、領野による多少の発現量の差は見られるものの、皮質全体に発現が見られた。また、発生期の発現の解析からER81の発現は第5層細胞の誕生から成熟までの挙動と一致していた。次に、ER81発現細胞と回路形成との関連性を調べるために、上丘や対側大脳に投射する細胞の位置との比較を行ったところ、上丘や脊髄へ投射しているニューロンはER81を発現するのに対して、皮質対側へ投射しているニューロンの一部がER81を発現することがわかった。 本研究の結果、大脳皮質第5層に特異的に発現する遺伝子が得られ、ER81のラットホモログであったことや発現解析より大脳皮質第5層への分化の関与が示唆された。また回路形成との関連性では上丘へ投射するニューロン群との分布で直接的な一致はなく、皮質全体に分布する対側大脳への投射ニューロン群のうちの第5層内のニューロンに関わる可能性が示唆された。
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