研究概要 |
大脳皮質は特徴的な6層の細胞層から構成され、その層構造に基づいて神経回路が構築されている。同じ層にはサイズや形態が似た細胞が集合し、それらは神経結合においても同じ特徴を有する。このような層特異性は大脳だけではなく、他の神経系においても広く見られることから、中枢神経系の機能構築、それに基づく回路形成の一つの原則となっていると考えられる。これまでの発生学的な研究や申請者らのin vitro標本を用いた研究から、各々の層の細胞は特定の入出力回路を形成するための標的認識機構を有することが明らかになっている(Yamamoto et al.,1989,1992,1995)。さらに、この標的認識機構は大脳皮質に層特異的に発現する分子によって制御されることが明らかになってきた(Yamamoto et al.,1997,2000a,2000b ; Takemoto et al.,2002 ; Yamamoto 2002)。しかしながら、その分子機構については依然不明な点が多い。 本研究においては発生期大脳皮質において層特異的に発現する遺伝子を得て、神経回路形成との関連性を明らかにすることを目指した。そのために、層を切り分けて微量なRNAを抽出し、サブトラクションライブラリーの作製、スクリーニングを行った。その結果、4層と5層それぞれに特異的に発現する転写調節因子や細胞表面分子を得ることに成功した。また、モノクローナル抗体法を用いて、皮質神経回路形成に関与する分子として接着因子cadherinファミリーに属する分子が層特異的に発現することを見出した。加えて、これら層特異的に発現する分子の作用について検討を加え、大脳皮質の回路形成に層特異的分子が果す役割を明らかにした。
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