研究課題
神経回路が単純で、概日周期の多くの変異が使用可能なショウジョウバエを用いて、概日周期と睡眠の解析を行った。睡眠の観察は、赤外線ビームによる行動解析装置を使用し、従来法よりサンプリング・レートを上げて時間分解能を向上させ、データを自動解析できるプログラムを自作した。また、睡眠をほとんど取らない常染色体劣性の変異株(不眠:fmn変異株)を発見し解析を進めてきたが、今年度は、その変異遺伝子を最終的に同定した。fmn変異株は、概日周期は正常で、睡眠時間が野生型の10%程度まで減少しているが、活動時間中の、単位時間当たりの活動度は野生型と差がない。しかし、活動時間が長いため、1日当たりの活動量は著明に増加している。さらに、fmn変異株は、野生型よりも寿命が短く、生存率の半減期が約3-4週間、短い。fmn変異を、交配による組み替えを用いて解析したところ、第2染色体上のコカイン感受性のドーパミン・トランスポーター遺伝子(dDAT)のごく近傍にマップされた。そこで、fmn変異株で、dDATの発現を調べると、野生型よりも短い3'側が欠失したmRNAが発現していた。ゲノムDNAとcDNAの配列を決定したところ、dDAT遺伝子の第6イントロンに、トランスポゾンの挿入があり、その部位にスプライシング異常があり、dDAT機能が失われていた。dDATのノックアウトマウスは、ドーパミン・シグナルの過剰によると考えられる活動性の亢進と、寿命の短縮が認められ、fmn変異株の表現形と類似している。これらの結果は、昆虫でも、哺乳類と同じく、覚醒・睡眠調節にドーパミンが使われていることを示し、遠く離れた2種類の動物で、覚醒・睡眠調節が、遺伝子・物質レベルで類似していることを示した。これまでも、行動学的な類似性は示されてきたが、遺伝子レベルでの相似性の証明は、今回の結果が、世界でも最初である。
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