学習、経験によりシナプスは可塑性に変化することが知られ、その神経機構についても詳細な研究が進められている。ところが学習によるシナプスでの機能的変化が長期的な記憶として定着するメカニズムについては不明な点が多く残されている。我々はこれまで可塑的なシナプスモデルとして、光(条件刺激)と振動(無条件刺激)による連合学習を獲得したウミウシ神経細胞のシナプス後細胞(B型視細胞)において軸索終末部に限局した形態的な変化を観察し、それは摘出標本でのin-vitro学習系においても再現されることを報告し、これが記憶定着へのプロセスではないかと考えている。今回の検討により形態的な変化は、シナプス後細胞の興奮性上昇に遅れて発現することを新たに見出した。また条件刺激と無条件刺激に同期して上昇する細胞内Ca^<2+>濃度変化が必要であり、このCa^<2+>濃度の上昇にはリアノジン受容体が関与することも見出した。このような連合学習は同種の軟体動物腹足類のモノアラガイでも可能で、そのための発達における最適学習時期、刺激条件も決定し、学習情報がウミウシとは異なる神経細胞(有毛細胞)に収斂することも見出していたが、今回それぞれの感覚受容系、視覚系、前庭系の受容器細胞の生理学的な基本的性質を明らかにし、今後学習獲得、記憶形成によりそれぞれの受容器の特性がどのように修飾されるか検討する上での基礎を確立した。また学習獲得のウミウシにおいて特異的にリン酸化されるタンパク質calexcitinが学習を獲得したモノアラガイ中枢神経系においても発現されることを見出した。この特異的タンパク質は、学習の様式が異なっても学習を獲得し、記憶が形成されると中枢神経系で発現するはずなので、条件付の条件刺激としてショ糖(味覚刺激)、無条件刺激として機械的な接触刺激による連合学習を新たに確立し、今後の検討課題の基礎を作った。
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