研究概要 |
本研究は,コミュニケーションに重要な,相手の動作とその意図の理解(Theory of Mind : ToM)に関る,後下前頭葉を首座とするヒト・ミラー・ニューロン・システム(HNMS)を含めた前頭葉機能と脳内ネットワークを解明することを目的としている. 平成15年度は,これまで健常成人を対象として解明した,動作や表情の観察・模倣によるHNMSのメカニズムを,模倣の困難なアスペルガー症候群の患者にて,海外研究協力者と共に解明した.その結果,両側後下前頭部(左側ブローカ野と右側相当領域)の活動の低下と遅延が明らかになり,HNMSがToMの中心的役割を担っていることを示唆する所見と考えられた. またこれまでの動作や表情およびそれらを示唆する静止画像等の視覚情報と同様に,動作を示唆する非言語性聴覚刺激を用い,その聴取(観察)および再現(模倣)時における脳活動の評価を行なった.その結果,非言語性聴覚刺激に対しても,これまでの我々が明らかにしてきた後下前頭部を中心としたHNMSが存在することを明らかにした(投稿中). 一方,コミュニケーションの根幹である相手の動作や表情の理解に重要な機能を担ってきた部位であることを,これまでの研究で示唆してきたブローカ野の,前方部Brodmann45野(BA45)と後方部BA44の機能分化を,新たに開発したダイナミック磁気共鳴分光法を用い解明した.その結果,従来運動性言語野と信じられてきたブローカ野は,BA45は言語性情報の処理を,またBA44は動作等の非言語性情報の処理を,それぞれ主として担っていることを,始めて明らかにすることが出来た(投稿中). さらに視覚情報の入手困難な者は,聴覚以外に触覚にて情報を得ている.このことから触覚情報の触知と再現における脳内活動を解明するために,触覚ディスプレイの試作を行い,それによる脳活動記録の予備研究を開始している.(794字)
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