本研究では、機能的ユニットである嗅球糸球体における嗅入力、投射ニューロン、介在ニューロンの相互結合関係を、定性的、定量的に形態に徹し詳細に研究することで、嗅覚情報処理の初段階の構造的基盤の解明を目指した。 研究実施計画に従い、共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)、電子顕微鏡(EM)で次の解析を行った。主嗅球の糸球体を構成している神経要素相互関係の詳細を、正常及びトランスジェニックマウス(1)嗅神経特異的に蛍光色素GFPを発現させたマウス、(2)GABAニューロン特異的に蛍光色素GFPを発現させたマウス、(3)connexin36遺伝子にレポーター遺伝子β-galを組み込んだ遺伝子改変マウス、3種類を用いて解析し、マウス傍糸球体細胞(PG)の構成について詳細を明らかにした。さらにEMレベルでの観察により糸球体内における僧帽/房飾(M/T)cell間及びM/T cellと介在ニューロン間のギャップ結合、及びM/T cell細胞体・近位樹状突起における介在ニューロンとの間のギャップ結合、さらにシナップスも加わった複雑な神経回路網を明らかにした。前者は糸球体特異的な同期に対応する構造を初めて示したものといえる。 またスライスでの細胞内標識色素細胞内注入から、"juxtaglomerular neurons(JX細胞)"の突起等の詳細が判明し、この領域では形態学的特徴、化学的性質から細胞分類の再検討の必要が認識された。更に、食虫目の解析から種差が判明していたので、テンレック科ヒメハリテンレックについて解析した。遺伝子配列解析手法による新分類では、「真主齧上目」(齧歯目のマウス、ラット等)、「ローラシア獣上目」(食虫目のジャコウネズミ、ハリネズミ等)において我々が提唱しているPGの分類を「アフリカ獣上目」のテンレックでも確認できた。
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