マウスナー細胞は魚類の後脳第4節に存在する同定可能な神経細胞であり、左右一対しか存在しないことから、軸索ガイダンスや、回路と機能の関係等を研究するモデルとして優れている。今回、光転換法をもちいて、この細胞を可視化できるようになった。また、この神経細胞が存在する神経系で発現する遺伝子の内、特に二種類のカドヘリンの役割について検討した。 1.前年度、UVを照射することにより、蛍光色が緑から赤に変色するヒユサンゴの蛍光蛋白KAEDE遺伝子を、ゼブラフィッシュに発現させ、少数あるいは単一の細胞にUVや紫色のレーザーを照射することにより、軸索や、樹状突起、生長円錐を可視化する技術を開発した。今回、この技術をさらに改良し、トランスジェニックを活用することにより、マウスナー細胞でKaedeをルーチンに発現させることに成功した。このことにより、例えば、左右のマウスナー細胞のうち片方だけの蛍光色を変え、軸索の振る舞い等を観察することができるようになった。 2.カルシウム依存性細胞間接着因子であるE型カドヘリンとN型カドヘリンはゼブラフィッシュにおいては、ともに、中枢神経系で発現が見られる。N型カドヘリンの突然変異体parachuteにおいては、マウスナー細胞は非常に特徴的なフェノタイプをもち、その細胞体の位置が通常存在する後脳の4節から5節や6節にずれる。また、通常対称に存在する一対のマウスナー細胞体が、非対称になる例がみられる。E型カドヘリンの突然変異体で、ローダミデキストランにおけるバックフィルや、特異的なモノクロナル抗体による染色をおこなって調べたところ、細胞体の位置や軸索の形態に変化は認められなかった。また、両カドヘリンの二重変異体を作成し、同様に観察したが、相乗的なフェノタイプは観察されなかった。このことは、この二つのカドヘリンがマウスナー細胞の発生において、異なる役割を持っていることを示している。
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