平成17年度には以下の研究成果をあげた。 申請者は前年度までに神経栄養因子であるBDNF(brain-derived neurotrophic factor)が主にmTOR(mammalian target of rapamycin)シグナル経路を活性化して翻訳の開始過程に促進的に働いていることを見いだしている。 本年度は翻訳の次のステップである翻訳進展過程に対するBDNFの作用を検討した。BDNFによって神経細胞でのribosomal transit timeの短縮、すなわち伸展の促進が見られた。また同時にeEF2のリン酸化レベルの低下が観察された。阻害剤(rapamycin)を用いた薬理学的実験やsiRNA(mTORsiRNA)を用いた実験から、このeEF2のリン酸化の低下はmTORを介した系路が重要で、eEF2キナーゼの活性の抑制が必須であることがわかった。さらに補助的にはMAPK-p90RSKを介する系もeEF2キナーゼの活性を制御していることがわかった。EEF2のリン酸化レベルの変化は樹状突起上でもおこっており、局所的な翻訳伸展の調節が示唆された。 これらの結果は神経栄養因子BDNFが翻訳の開始、伸展の双方において複数のステップを協調的に活性化する結果、新規蛋白合成の促進がおこることを示している。本研究においてBDNFによる局所的翻訳調節の分子機構を明らかにすることができた。
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