我々は、小脳顆粒細胞という、神経細胞の中でももっとも数が多い細胞種を材料に、Rhoの上流と下流のシグナル伝達系を解明することを試みた。 SDF-1α/CXCR4による小脳顆粒細胞の形態制御とRho情報伝達系の関与について検討した。まずマウス生後一日齢初代培養小脳顆粒細胞の初期軸索形成・伸展という視点で観察すると、SDF-1αは低濃度で軸索伸展を増強し、高濃度で軸索形成を抑制することが明らかとなった。この際、SDF-1αが低濃度、高濃度においてRho活性を上昇させていることが明らかになった。この実験系でRhoの標的分子の一つであるp160ROCKを阻害すると、SDF-1αによる軸索形成抑制が解除された。また軸索伸展が著しく増強したが、この作用はC3菌体外酵素処理によりなくなることから、Rhoの下流に軸索伸展作用を示す標的分子の存在が推定された。Rho下流分子の候補として、mDia1に着目した。mDia1の中枢神経系における発現部位を検討すると、マウス生後一日齢で小脳の外顆粒層や大脳皮質に多く認められた。さまざまな変異体を用い、リポフェクション法にてmDia1およびその変異体を過剰発現し、その表現型を観察した。その結果、SDF-1α/ CXCR4/Rho/mDia1経路が小脳顆粒細胞の軸索伸展を制御していることが明らかとなった。 以上より、軸索伸展の正の制御にmDia1が必須であることが証明された。すなわち、Rhoは、2つの標的分子ROCKとmDia1を協調的に制御することにより、軸索突起形成・伸展がバランスよく生じ、回路網形成のために最適な条件を生み出している可能性を示唆するものである。
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