ミトコンドリアの機能障害や形態異常はALSを含む多くの神経変性疾患で指摘されてきたが、近年の研究の進展により「神経変性に至る共通経路」の1つとして注目を集めている。研究代表者は生後の運動ニューロン特異的にCreを発現するマウス(VAChT-Creマウス)の作出に成功し、運動ニューロンにターゲットを絞った病態モデルマウスの作製を試みている。このVAChT-Creマウスとミトコンドリアの活性酸素の除去機構として重要なMnSOD(SOD2)floxedマウス(都老人研、白澤博士より提供)を掛け合わせて、運動ニューロン特異的に同酵素を欠損するマウスの作製を試みた。以前から、ALSを含む様々な神経変性疾患や老化過程でのMnSODの動態(および活性酸素の処理の異常)に注目が集まっているが、MnSODを全身で欠失するマウスは胎生期または出生直後に拡張性心筋症にて死亡するため、成体における働きは解析できなかった。 生後の運動ニューロン特異的にCreを発現するマウス(VAChT-Creマウス)とSOD2 floxedマウスを掛け合わせて、運動ニューロン特異的に同酵素を欠損するマウスを作製した。出生マウスの遺伝子型の解析では、予想される数のConditional KOマウスが得られた。これらのConditional KOマウスでは出生時から生後1年までの間に顕著な異常(運動失調や麻痺)は観察されなかった。生体内の活性酸素ラジカルを特異的に検出するhydroethidineを静注したところ、運動ニューロンのミトコンドリアでの活性酸素ラジカルの顕著な産生増大が観察された。しかし、各種抗体による組織化学的解析では細胞レベルでのいかなる神経変性の兆候も観察されなかった。 以上の結果から、少なくとも、運動ニューロンはミトコンドリア由来の活性酸素障害には高い抵抗性を有することが明らかとなった。
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