研究概要 |
トロポニン遺伝子突然変異による肥大型(HCM)及び拡張型(DCM)心筋症の病態発現機構を明らかにするために遺伝子改変ノックインマウスを作製と解析を行った。心筋トロポニンT遺伝子ΔK210ミューテーション導入マウスの作製に成功した。このマウスは同遺伝子変異をもつヒトにおける臨床病型に非常に良く似た拡張型心筋症を発症し、心臓の明らかな拡大と両心室内腔の拡張を示した。長期観察により、7ヶ月令までにヘテロ接合体ミュータントマウスの半数が外見上全く前兆のない突然死により死亡することが明らかになった(野生型マウスはほぼすべてが10ヶ月令まで生存した)。また、ホモ接合体ミュータントマウスはより大きな心拡大と両心室内腔拡張を生じ、すべてのマウスが5ヶ月以内に突然死した。インビトロとインビボにおけるさまざまな解析の結果から、このDCMマウスモデルでは心筋収縮カルシウム感受性の低下による心筋収縮力低下に対する代償機構として心拡大と心室内腔拡張が生じているが、心臓ポンプ機能自体ははそれによって完全に代償され正常に保たれていることが明らかになった。それにも関わらず高い頻度で突然死が発生するメカニズムを明らかにするために、心筋細胞内カルシウム動態、心筋線維力学的性質等の解析を行った結果、大変興味深いデータを得た。今後これを確認する実験を進めている。また、DCMとHCMをそれぞれ引き起こす心筋トロポニンTミューテーションであるI110F,S179FとR141W,A172Sを導入したノックインマウス作製を計画し、ターゲッティングベクターの作製をほぼ完了した。
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