研究概要 |
ヒトが文章を読み理解するときに行われる文法(統語)処理に関する脳内の神経活動を時空間的に明らかにすることを目的として研究を進め、以下の結果を得た. 1.「AはBがCを------するのを見た」で表される語順(canonical)の複文と,「CをAはBが----するのを見た」のように名詞句の順序を入れ替えたかき混ぜ(scramble)文の脳内統語処理に着目した.2種類の文章を作成したのち句に区切り,それらを普通に読む速度となるよう連続して(0.4s間ONおよび0.4〜0.55s間OFF)視覚呈示した.試作した画像制御装置により正確なタイミング(トリガとの時間ずれが1ms以内)で呈示することが可能となった. 2.同じ文章セットを使い,128ch脳電位と204ch脳磁図計測を行った.脳電位では被験者間の総平均波形を検討した結果,scramble文の第1〜第3名詞句にかけて、左前頭から側頭にかけて持続する負の波形シフトを観察した.scrambleされた句に対するワーキングメモリ機能を反映すると考えられる.また,脳磁図では左右脳に分けたチャンネルのrms値で波形振幅を評価した結果,第1,第3名詞句と第1,第2動詞句において長潜時(500-700ms)の反応ピークを観察した. 3.脳磁図データから脳内の多領域に分散した活動を推定するために,電流分布解析法(L1ノルム法)について検討した.活動源が特定されている聴覚N1m反応やシミュレーション解析により計算条件を検討し,10〜15mm程度の精度で3領域に分離した活動が推定できることが分かった. 4.L1ノルム法を2名の被験者のデータに適用した結果,500-700msの反応について,前頭,側頭,側頭・頭頂境界部に活動が推定された.文章処理に関して前頭の言語野(Broca領野)だけではなく側頭言語野(Wernicke領野)も含む脳の広い領域活動が関与していることが示唆された.
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