研究概要 |
1.脳内活動源解析ツールの開発に関しては,L1ノルム法で脳内に広く推定された信号源を複数の被験者にわたって平均化し,活動源分布として視覚化する方法を開発した.まず,異なる被験者の脳の形状(MR脳表画像)を標準脳に合わせて拡大・伸縮と回転させることで標準脳の座標に変換する.つぎに,共通座標上の活動位置を中心に双極子モーメントをガウス関数で分散させ(標準偏差15-20mm),異なる被験者間でモーメント値を加算して活動分布とした. 2.上述の方法で12名に被験者にわたる脳活動の総平均分布を得た.その結果,左脳の前頭前部,運動・感覚野,側頭後部,後頭部の5部位が被験者に共通の活動焦点領域として特定できた.ここで前頭前部と側頭後部は言語領野に,後頭部は高次視覚領野に相当する.運動・感覚野は本研究で新たに見出された領野であり,名詞句(主語と目的語)を転位させた文の統語的処理に関係すると推察された.体部位局在の位置は,正中神経刺激による誘発脳磁界の信号源位置と一致したことから,手の領域にあたることが分かった.これに対し,右脳では後頭視覚野以外には焦点となる活動領域は見られなかった. 3.脳波計測では,前年度までに検出された4つの成分(言語性ワーキングメモリを反映する前頭部持続性陰性波、構造の構築を反映するP600,意味と統語の統合を反映する前頭部陰性波、統語違反を反映する左前頭部陰性波LAN)すべてにおいて、再解析を行い,再現性を確認した. 4.以上より、文を読解するときには、左脳全体の様々な部位が活動することがわかった。潜時300ms以前に後頭部において視覚的処理の活動が起こり、側頭後部では単語の意味の認知などの活動が生じる。その後,潜時300ms以降においてはワーキングメモリに関する前頭前部の活動が大きくなる。転位文では,おそらく統語的処理に関係して運動野が活動すると考えられる.
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