本研究は、動脈硬化症、脳動脈瘤形成、および吻合部内膜肥厚など、血管壁の肥厚又は衰退を伴う血管病の発病並びに局在化機構の解明を目的として、ウシ大動脈由来平滑筋細胞と内皮細胞を共培養して作製した血管壁モデルを用いた培養実験およびイヌを用いた生体実験により流れの影響について検討したもので、その成果の概要は、以下に記した通りである。 (1)水透過がない場合には、流れ(せん断応力)の負荷によって内皮細胞によるLDLの取込みが増大するが、化学的に修飾されたアセチル化LDL(AcLDL)の取り込みは逆に減少し、それがスカベンジャー受容体を介した取込みが減少するためであることが判った。 (2)水透過がある場合には、血管壁モデルの壁面におけるLDLの濃度が流速の増減によって変化し、流速が小さいほど高くなることが判った。また、壁面濃度が高いほど細胞層に取り込まれる量が多いことが判った。 (3)イヌの大腿動脈に水透過速度の異なる3種類の人工血管を移植し、それらの移植前および採取後に測定した水透過速度と形成された偽内膜の厚さとの関係について調べた。その結果、水透過速度が小さいものほど内膜肥厚が抑制されることが判った。 (4)血管壁モデルを急激に拡大する流路の一部となるように装着して7-10日間循環培養し、細胞増殖およびヒト単核細胞(THP-1)の細胞層への付着・侵入に及ぼす流れの局所的な乱れ(渦流れ)の影響について調べた。その結果、細胞増殖の指標としての細胞層の厚さおよびTHP-1の細胞層への付着・侵入は、共に流れが遅く壁せん断応力が小さい拡大管入口近傍の淀み点および環状渦の最先端にあたる再付着点近傍で最大、流れが速く壁せん断応力が大きい渦の中間部および再付着点の下流部で最小となっており、動脈硬化や内膜肥厚が流れが遅く壁せん断応力の小さい領域に起こりやすいという臨床学的観察結果と一致することが判った。
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