研究概要 |
動脈硬化症病変部では血管中膜に存在する平滑筋細胞が内皮細胞下に遊走し,コラーゲンなどの細胞外基質を過剰に産生して内膜を肥厚させている.この内膜肥厚により血流が阻害され,心筋梗塞などの様々な疾患を引き起こしているのである.本研究では,内皮細胞と平滑筋細胞を共存培養した血管モデルを新たに構築し,内皮細胞表面に流れを負荷した場合の平滑筋細胞の遊走性や細胞間に働く生理活性物質の産生などを詳細に調べることにより動脈硬化症発生メカニズムの解明を目指す.研究初年度である今年度は,共培養血管モデルの構築を行った後,流れ負荷実験により平滑筋細胞の遊走を観察した.また,細胞外基質分解酵素の一つであるMMP-2の活性の変化を調べた.内皮細胞および平滑筋細胞はウシ胸部下行大動脈より単離した.血管モデルを構築して1日後,細胞に1.5Paのせん断応力を48時間にわたって負荷した.流れ負荷実験後,SYTO13により細胞核を染色した.ホルマリン固定した後,共焦点レーザー顕微鏡を用いて血管モデルの断面画像を取得しコラーゲンゲル中に遊走した平滑筋細胞を数え遊走の指標とした.その結果,平滑筋細胞のみのモデルに比べ,共存培養血管モデルの平滑筋細胞遊走性は平均値で約1.8倍増加した(p<0.05).しかしせん断応力を負荷すると遊走性は有意に抑制された(p<0.005).すなわち,内皮細胞の存在によって促進された平滑筋細胞の遊走がせん断応力により抑制されることが示された.また,Gelatin zymographyにより平滑筋細胞が産生するMMP-2の活性を調べた結果,平滑筋細胞のみのモデルに比べ,内皮細胞と平滑筋細胞を共存培養したモデルではMMP-2の活性は上昇した.共存培養モデル間で比較すると,せん断応力負荷後のモデルでは静置培養に比べMMP-2の活性は抑制された.平滑筋細胞遊走性の変化と相関関係が見られることから,平滑筋細胞の遊走にはMMP-2が関与していることが示された.来年度は,血管モデルの物質透過性や内皮細胞が産生する一酸化窒素などに注目していく.
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