研究概要 |
内皮細胞と平滑筋細胞を共存培養した血管モデルを新たに構築し,内皮細胞表面に流れを負荷した場合の内皮細胞の機能変化,平滑筋細胞の遊走性や細胞間に働く生理活性物質の産生などを詳細に調べることにより動脈硬化症発生メカニズムの解明を目指す. 1.内皮細胞由来一酸化窒素の影響 せん断応力を負荷した共存培養モデルの平滑筋細胞の遊走減少における内皮細胞由来一酸化窒素の影響を調べるため,一酸化窒素(NO)合成阻害薬であるL-NAMEを含む培養液を用いてせん断応力負荷実験を行った.通常の培養液を用いてせん断応力を負荷した場合,血管モデル中の平滑筋細胞の遊走は抑制されたが,内皮細胞のNO合成を阻害した場合には遊走は抑制されなかった.このことからせん断応力負荷により産生が増加した内細胞由来NOが平滑筋細胞の遊走を抑制していることが明らかになった.一方,血管モデル中の細胞外基質分解酵素(MMP-2)活性は一酸化窒素を阻害した場合でもせん断応力負荷により抑制された.MMP-2活性はNOとは異なる内皮細胞由来のサイトカインで制御されている可能性が示唆された. 2.内皮細胞層の物質透過性の測定 蛍光標識した血清アルブミンをトレーサーとして,共存培養モデルの内皮細胞層の物質透過性を測定した.静置培養環境下において,内皮細胞のみで構築した内皮細胞モデルに比べ,血管モデルモデルの内皮細胞は高い物質透過性を示した.1.5Paのせん断応力を、24時間負荷することにより,血管モデルの物質透過性は有意に減少した(P<0.05).平滑筋細胞は内皮細胞の物質透過性に重要な役割を持つことが考えられた. これらの結果から,内皮細胞と平滑筋細胞はせん断環境の変化によって互いの機能を変化させる相互作用を有し,正常な血管壁と動脈硬化症病変の進展に深く関わっていることが明らかになった.
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