研究概要 |
成体肝臓中に存在する幹細胞の候補の一つとして肝上皮細胞が挙げられている。我々はこれまでに健常SDラット肝臓の非実質分画中に存在する、α-フェトプロテイン陽性、アルブミン/サイトケラチン19陰性を示す未分化な上皮細胞(HSL細胞)を樹立し、その分化能を検討してきた。今回、HSL細胞は培養条件を変えることによって成熟肝細胞あるいは胆管上皮細胞へ分化誘導できることを明らかにした。 HSL細胞をデキサメタゾンとインスリン共存在下で培養したところ、チロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)やトリプトファン2,3-ジオキシゲナーゼ(Tdo2)の遺伝子発現量の増加が認められた。一方、EGF存在下で培養するとHSL細胞にγ-GTP活性の発現が認められ、またサイトケラチン19陽性細胞の出現が確認された。 さらに、HSL細胞を肝星細胞と共培養したり、I型コラーゲンゲル内で三次元培養したりすると、アルブミン、トランスフェリン、α1-アンチトリプシンなど成熟肝細胞のマーカー蛋白質を発現するようになることがわかった。また、酪酸ナトリウムや一次胆汁酸であるケノデオキシコール酸存在下でHSL細胞を培養すると、・-GTP活性を発現するようになり、胆管上皮細胞の形質を現すようになった。 以上のように、様々な条件下でHSL細胞を培養すると成熟肝細胞あるいは胆管上皮細胞の形質を示すようになったことから、HSL細胞は二方向性の分化能を保持していることが明らかになった。このことは、HSL細胞が成体肝に存在する幹細胞として機能できることを示唆しているものと考えられる。
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