肝臓幹様細胞(HSL細胞)を用いた効率移植方法を検討するため、肝臓の主要な細胞外マトリクス成分であるI型コラーゲンによって作製された各種移植担体を用いた細胞移植を行った。移植6週後、コラーゲンスポンジ内にアルブミンを発現している細胞が免疫染色によって確認された。さらに無アルブミンラット血清中のアルブミン量が移植後11週目から増加していることを認めた。移植担体間での比較では、ゲル状コラーゲンを用いた群では移植前に比べて2.5倍量の増加を認めたのに対し、スポンジ状コラーゲンを用いた群では1.7倍の増加であった。以上より、ゲル状コラーゲンを用いた移植方法がHSL細胞の生着や機能発現に効果的であることが分かった。 次に、肝細胞と胆管上皮細胞の両方に変換できる肝臓幹様細胞(HSL細胞)が、β細胞源に形質変換できるかどうか検索した。RT-PCR分析から、酪酸ナトリウムとβセルリンによって膵臓の内分泌腺細胞の分化にかかわる一連の転写因子が誘導された。また、インシュリン、βセルリン、膵臓ポリペプチド、およびソマトスタチンのmRNAの発現が観察された。以上の結果、正常な成体肝臓から得られたHSL細胞は、in vitroで膵臓の内分泌腺細胞に分化する能力性を持っていた。HSL細胞はインシュリン依存性糖尿病のための細胞移植療法のためのβ細胞源の一つとなる可能がある。 さらに肝臓の分化機構について検討した。肝臟前駆細胞の一つと考えられている卵形細胞の関与する肝再生でオンコスタチンM(OSM)の役割をはっきりさせるために、2-acetylaminofluorene/部分肝切除モデルを作製し、肝臓でOSMとOSM-特異受容体(OSM-R)の発現を調べた。その結果、増殖抑制、絨毛の発達や細胞内器官を伴った細胞質の拡大などの形態学的な変化、および肝細胞マーカー(アルブミン、チロシンアミノトランスフェラーゼ、およびトリプトファン・オキシゲナーゼ)の発現が観測された。 これらの結果は、OSM/OSM-Rシステムが卵形細胞を肝細胞に分化誘導し、肝再生を促進するために重要であることを示唆している。
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