癌細胞が抗癌剤に抵抗性になるための分子をsiRNAで抑制し、抗癌剤に対する感受性を増強する実験を行った。シスプラチンの耐性機構の1つとしてDNA修復機構が知られているが、シスプラチン処理した癌細胞においてRad51の発現が増加すること、Rad51の強発現により癌細胞のシスプラチン抵抗性が増すことが明らかになった。そこで我々はHVJ envelope vector(HVJ-E)を用いて癌細胞にRad51の合成siRNAを導入し、5日間Rda51の発現を完全に抑制することに成功した。このRad51siRNAを導入したHeLa細胞は0.02μg/mlのシスプラチン3時間処理でコロニー形成をコントロールの10%以下に抑制できた。SCID mouseにHeLa細胞を移植して腫瘍塊を作り、シスプラチン200μgを腹腔内投与した状態で、この腫瘍塊に3回Rad51siRNA封入のHVJ envelope vectorを注入することにより腫瘍の増殖を2週間は完全に抑制し得た。同様にしてブレオマイシン(BLM)の感受性を高めるため種々のsiRNAを試した。ブレオマイシン加水分解酵素をノックアウト可能なsiRNAではBLMの増強効果が認められなかった。次いでHeLa細胞において内在するpolyADP-ribose polymerase(PARP)の発現に対するsiRNAの効果を調べたところ、PARP siRNAは合成した3種類すべてが機能しノーザンブロットでmRNAを完全に抑制した。BLM耐性株ではPARPの発現上昇が知られている。しかし、これを使ってもBLMの感受性は上がらなかった。そこでRad51siRNAを導入したところBLMの感受性の増強が見られた。同様の方法が他に抗癌剤やsiRNAの組み合わせで可能になると考えられ、このことはsiRNAの癌治療における有望な臨床応用の方向性を示している。
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