研究概要 |
本研究では、癒着防止膜として最適な力学的強度と分解プロファイルを有する生分解性材料の調製を目的として、生分解性速度の調節が可能な乳酸-デプシペプチド・ランダム共重合体をAセグメントとし、親水性で組織非接着性を有するPEGをBセグメントとしたABA型トリブロック共重合体について検討した。昨年度までは,デプシペプチドユニット中のアミノ酸として疎水性の高いロイシンを含む共重合体<PLGL-PEG-PLGL>について報告した。今年度は,疎水性相互作用に加えて芳香族-芳香族相互作用(π-πスタッキング)による力学的強度の向上を期待して,アミノ酸としてフェニルアラニンを含む共重合体<PLGF-PEG-PLGF>の合成を行い,その力学的特性や生分解挙動について検討した。分子量20,000のPEGの両末端の水酸基を開始点として、フェニルアラニンとグリコール酸からなる環状デプシペプチドとラクチドとの仕込み率を変えて溶融封管重合を行い、PLGF-PEG-PLGFを合成した。得られた共重合体の塩化メチレン溶液よりキャスト膜を調製した。引張試験の結果,ロイシンを含む共重合体と比較して,フェニルアラニンを含む共重合体の方が,高い弾性率と大きな破断のびを示し,フェニルアラニンを導入することにより力学的強度を高められることが示された。次にPBS中でのフィルムの分解性を調べた。これまでと同様PEG含有率あるいはデプシペプチド導入率が高くなるほど分解が促進されることが確認された。また,同様な組成の場合,フェニルアラニンを含む共重合体の方がわずかに早い分解速度を有することも明らかとなった。一般にポリ乳酸系材料の力学・生分解特性において力学的強度の向上と生分解速度の上昇は相反すると考えられるが,今回フェニルアラニンを含むデプシペプチドユニットを導入することにより,これらを両立できることが示唆された。
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