研究概要 |
本研究の目的は脳卒中片麻痺に対する低頻度反復経頭蓋磁気刺激を併用した運動療法の効果、ならびに片麻痺の回復に関与する可塑性変化を、脳機能画像検査により明らかにすることである。本年度は、脳卒中回復期の片麻痺患者10人を対象として、経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位(MEP)と、MRI拡散テンソル技法による皮質脊髄路の障害度指標であるfractional anisotropy (FA)、apparent diffusion coeffecient (ADC)との関係を検討した。FAが小さく、ADCが大きいほど組織障害が強いことを示している。これらの値と麻痺との関係は昨年度に報告した。対象の内訳は、脳梗塞7人、脳出血2人、くも膜下出血1人で、発症からのMEP、MRI検査までの期間の平均値は、それぞれ116日、117日であった。MEPは両側の短母指外転筋を被検筋として、それぞれ最適刺激部位に安静時閾値の1.2倍の強度で刺激を行い記録した。FA、ADCは両側の大脳脚で各々計測した。その結果、MEP安静時閾値が100%を越え、MEPを記録できなかった群(MEP-群、n=5)は、MEP安静時閾値100%以下の群(MEP+群)よりも統計学的に有意にEAが低値(unpaired t test, P<0.01)、ADCが高値であった(P<0.0005)。このことから、拡散MRIパラメータにより、皮質脊髄路の障害度を推定することができると考えられた。またMEP-群の手指Brunnstrom stageは1〜4、MEP+群は3〜6であり、stage3とstage4の違いは皮質脊髄路の障害度では説明することができないと示唆された。以上の神経生理・画像データの得られた患者を追跡し、機能的プラトーに達した患者を対象に経頭蓋磁気刺激を併用した運動療法の効果を検討する予定である。
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