研究概要 |
1.聴覚障害者に影響を及ぼす室内音響特性の測定 重度の聴覚障害者が在籍する福岡県内の4つの聾学校において,教室,聴力検査室、訓練室およびプレイルームの騒音レベル(L_<Aeq>),残響時間(s),音声の聞き取りやすさを示す高速音声伝達指数(RASTI)の測定を行った。その結果,騒音レベルの測定では,空調の音が許容値を超えており,聞き取りの妨げになっていると予想された。また用途からして残響時間が長すぎる教室および聴力検査室が存在していることが明らかとなった。これは内装の違いや材質の選択ミスが考えられた。 次に高齢者が多く利用する公民館において,講演会などがよく開催される講堂の音環境の測定を行った。対象は福岡市内の6公民館とした。測定項目は,聾学校測定と同じ3つの物理的指標で行った。騒音レベルはすべての公民館で許容値以内であった。しかし,残響時間に関しては公民館により差異が認められた。またRASTIは健聴者の基準を満たしていたが,高齢者の聴力低下を考慮した場合,すべての公民館でやや不十分なRASTI値となった。 以上から,重度の難聴者が在籍する聾学校や軽度の難聴者が利用する公民館は,残響時間の短縮などの音響対策がなされるべきであるとした。 2.残響下における音声知覚を評価するための語音素材の作成 残響下でどの程度の明瞭度になるかを防音室や検査室で簡便に知るための語音素材の検討をおこなった。実際の残響のある室内(一教室)のインパルス応答を測定し,その残響特性(残響時間2s)を補聴器適合用CD(TY-89)の語音素材(有意味2音節)に畳み込んで作成した。また,残響時間の影響を観察するためにその半分の残響時間(1s)をもつ語音素材も作成した。 次年度は,この語音素材を用いて,健聴者と聴覚障害者が補聴器を装用した場合,どのような音声知覚になるのかを検討する予定である。
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