有酸素運動は食事療法とともに糖尿病、肥満症、高血圧、心不全患者など生活習慣病の病態改善や予防に重要な役割を担っている。しかしながら、寝たきり老人、過体重やその他の整形外科的拘束によって十分な有酸素性運動を行えない人々が多数存在する。そこで、本研究では、機能的電気刺激の手法を用い、運動に制限がある人々の運動療法を確立しようとするもので、今年度は、下肢の大筋群の運動量(エネルギー代謝)が最も高くなる電気刺激部位、刺激頻度、極性、収縮・弛緩サイクルの決定を行うため、健常者8名を対象に機能的電気刺激のコンピュータソフトの開発、実験検証を行った。さらに同一運動強度(酸素摂取量)での随意運動下肢筋群での(自転車漕ぎ)と筋電気刺激時におけるエネルギー代謝特性(糖・脂質代謝量)、並びに心臓自律神経活動などに及ぼす影響を比較検討した。実験では、両側の大腿四頭筋上に表皮電極を貼り付け、予備実験で明らかになった最もエネルギー消費を高める電気刺激法(刺激周波数20Hz、1秒間刺激1秒間休息のパターン)を20分間行った。酸素摂取量を呼気ガス分析から、全身糖取り込み量は、正常血糖高インスリンクランプ法を用いてグルコース注入量の変化から決定した。その結果、電気刺激中に酸素消費量は安静時の約2倍に上昇したことから、体内のエネルギー消費が亢進することが実験的に明らかになった。電気刺激は速筋線維を選択的に動員するため、血中乳酸濃度、呼吸商の有意な上昇を惹起し、筋グリコーゲン消費亢進が強く示唆された。この効果は同等の酸素消費をきたす自転車運動では認められなかった。運動中の全身の糖取り込み率は同程度の亢進を示したが、電気刺激終了後の持続的糖取り込み率は自転車運動後よりも有意に大きかった。これらの結果は、骨格筋電気刺激は糖・グリコーゲン代謝の活性化に非常に有効であることを強く示唆するものである。
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