日本三大玉露の生産地、静岡県志太郡岡部町朝比奈地域において直系制家族から夫婦制家族への家族変動がどのように進展しているかを明らかにするために1982年、93年、2005年の3時点パネル調査を実施した。3回の調査が完了した対象者は、2005年時点で53〜82歳の253人(82年の調査対象者の57.6%)である。1982年には茶生産が隆盛であったが、93年には茶生産が停滞し兼業化が進み、2005年には茶生産の衰退、農業後継者難・嫁不足が深刻化している。 世代間関係は、夫の親を「頼り」にし職業生活・家庭生活の全面的共同を基盤とする「運命共同体的な情緒関係」から、既婚子夫婦への親世代による活発な家事・育児役割の援助と、既婚子夫婦の職業生活や生活状況に適合的な生活分離を特徴とする「相補的役割援助に基づく情緒関係」へと移行している。この背景には家制度規範・家制度的人間関係の衰退、後継者の結婚難や嫁の経済力の高まり、介護問題の発生による姑の立場の弱まり、農業経営の世代間分離、既婚子夫婦の農外就労への職業移動など多様な要因が指摘できる。一方、2005年には後継者の他出や後継者の結婚難の深刻化、親世代の加齢や健康上の問題によって「相補的役割援助に基づく情緒関係」を保持する条件が失われつつある。これに伴って、夫の親に対する情緒関係は著しく低下し、2005年の生活満足度は82年、93年よりも低下している。また、調査対象者は1982年には直系家族規範に基づくきわめて画一的な老後意識をもっているが、1993年には生活分離意識の芽生え、2005年には別居志向と生活分離意識の高まりがみられる。 80年代からの23年間における家族内の情緒関係や老後意識の劇的変化の背景として、農村特有の緊密な近隣関係・親族関係等の地域社会関係と伝統的な地域文化が衰退し、農村地域としての凝集性が弱まったことが指摘できる。
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