研究概要 |
大腸菌O157の高い感染力と毒性の高いベロ毒素を生産する能力は、本病原体に対する予防や感染後の治療において、高い検出感度の検査法やベロ毒素生産を活性化しない抗菌剤の開発等の困難な問題を提起している。本研究では、大腸菌O157の弱毒化条件を確立するため、本年度はベロ毒素生産を抑制する物質を検索した。 大腸菌O157のベロ毒素生産性に対する種々のスパイスの影響を検討した結果、オールスパイスにベロ毒素生産に対する著しい抑制効果を見いだした。オールスパイス中の有効成分を精製して同定した結果、大腸菌O157のベロ毒素生産を抑制する物質はオイゲノールであることが判明した。本病原体の増殖に対する影響では、オイゲノール500ppm濃度以下の場合には増殖抑制効果はきわめて低く、1000ppmで完全に増殖を抑制した。しかし、大腸菌O157の増殖がほとんど抑制されないオイゲノール濃度でも、ベロ毒素VT1,VT2共に著しく生産量が抑制された。すなわち、オイゲノール10ppmでベロ毒素生産性は半減、100ppmでは1/8にまでベロ毒素生産性が低下した。さらにオイゲノール濃度が高くなるにつれてベロ毒素生産が抑制される傾向がみられ、500ppmではVT1は検出されず、VT2も生産性は1/16にまで低下した。これまでに大腸菌O157のベロ毒素生産を抑制する物質は見いだされていないため、本研究の成果は、本病原体の毒性を低下させるためにきわめて有用な知見と考えられる。
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