研究概要 |
本研究の目的は,生体情報を用いて感情の他覚的評価を実現することにある。本年度は,分析方法の検討を中心課題として研究を進めて,以下の(1)から(3)の知見を得た。 (1)平成15年度に開発した基本感情を引き起こすための映像クリップを利用して,情動喚起時の生理情報変化パターンを明らかにするため実験を行った。その結果,以下(1)〜(3)の知見を得た。またこれらは,生体情報の持続的成分の分析により得られたものであるが,現在一過性(phasic)成分についての分析を継続している。 (1)単位時間あたりの吸気量あるいは呼気量の総和である分時換気量は,快・不快感情を引き起こすクリップ呈示中に有意に増加したことから,情動喚起のマーカーとして利用可能である。 (2)血圧は不快情動喚起クリップで有意に増加し,心拍反応は変動性を増した。従って,心臓血管系反応は快と不快情動の弁別に有効な指標になると考えられる。 (3)情動反応の個人差については,アレキシサイミア特性との関連性を検討した。以上の成果は日本生理心理学会,米国生理心理学会および国際生理心理学会で発表した(研究発表1-3)。 (2)本研究は,将来的に幼児・児童の情意領域評価の研究につなげることを意図している。そのために,幼稚園・保育園の保母・教諭の意見を参考に,幼児用の快・不快情動クリップを開発した。3〜5歳児を対象にして,開発クリップの集団視聴を行い,行動変化を観察した。その結果,発達段階によって,不快クリップへの反応に違いがあるという興味ある知見を得た。 (3)幼児の感情喚起を研究ターゲットにした場合,生じた感情に対してどのように対処するかも考慮しておく必要がある。(1)で述べたように呼吸は感情変化を鋭敏に反映する。この呼吸をセルフコントロールすることにより,感情をコントロールできる可能性があることを示した(研究発表4)。
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