研究概要 |
本研究では情動を自然に喚起するために,成人用と幼児用の映像バッテリを作成した.成人バッテリを使用して,映像視聴時の生体情報から情動の他覚的評価を試みた.これまでの実験から,以下(1)〜(3)の所見が得られた。 (1)情動喚起の有無は,分時換気量(VE)の増加で判別可能である。VEは呼吸周期ごとに,呼吸数(RR:周期の逆数)と1回換気量(TV)から,VE=RR×TVで求める。快情動を喚起する映像(POSI)と不快情動を喚起する映像(NEGA)に対してVEは有意に増加した。 (2)動脈血圧の連続測定から,血圧はNEGAに対して有意に上昇した。血圧は心拍出量と末梢血管抵抗の一方あるいは両方の増加で上昇し,{血圧=心拍出量×全末梢抵抗}と定義できる。心拍数(HR)はNEGAに対して,最初は減少する。このHR減少は,映像注視による心臓迷走神経系亢進で生じると考えられた。心拍出量はHRに依存するため,心拍出量は低下したにもかかわらず血圧が上昇したことになる。従ってNEGA呈示中の血圧上昇は,もっぱら末梢血管の収縮(αアドレナリン作動性血管交感神経活動亢進)により惹起されたことになる。 (3)不快情動が続く場合,HRは徐々に増加に転ずる。このHR増加は長い潜時(2〜3min)を特徴とすることから,副腎髄質から分泌された循環血中のアドレナリンが心臓交感神経系のβ受容体を刺激したことにより,時間遅れを伴いHRが増加に転じたと考えられた。NEGA呈示中のHR変動は,その周波数構造や変化傾向に特徴がある。以上をまとめると不快情動(VE+,HR-⇒+,BP+),快情動(VE+,HR-,BP±)になる。 この他,本研究課題に密接に関連する問題として,不快情動とそのコントロールというテーマを取り上げ,随意的な制御が可能な呼吸系による情動コントロールの可能性について学会誌に論文を発表した。
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