研究課題/領域番号 |
15300277
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
林部 敬吉 静岡大学, 情報学部, 教授 (20023624)
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研究分担者 |
雨宮 正彦 静岡大学, 情報学部, 教授 (00281056)
阿部 圭一 静岡大学, 情報学部, 教授 (80022193)
辻 敬一郎 中京大学, 文学部, 教授 (20023591)
松王 政浩 静岡大学, 情報学部, 助教授 (60333499)
ウイルキンソン ヴァレリ アン 静岡大学, 情報学部, 教授 (40240626)
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キーワード | 伝統工芸技能 / 技能の伝承方法 / 技能の習得の認知過程 / 職人選択の自発性 / 職人アイデンティティ / わざ言語 / 師匠と弟子 / ドイツマイスター制度 |
研究概要 |
本年度の研究では、日本の伝統工芸のなかで、鬼瓦製造(現代の名工、袋井在住 名倉 孝氏)、毛筆製造(伝統工芸士、奈良在住 田川 欽造氏)、硯製造(那智山口光峯堂、山口光峯氏)、奈良墨製造(墨雲堂松井 重憲氏)、駿河竹千筋細工(伝統工芸士、篠宮 康博氏)、静岡藍染(増田あいぜん工房、増田猪富氏)を訪問し、製造過程、製造方法、技能伝承方法、弟子教育方法を聞き取り調査すると共に、製造過程をビデオに録画した。また、北海道職人技術大学校(校長、大川 時夫氏)、日本カールデュイスベルク協会(専務理事 坂本明美氏)を訪問し、前者からは日本の伝統工芸のおかれた状態、その伝承方法などのついて、後者からはドイツのマイスター制度の現状を取材した。これらの調査から次の知見が明らかにされた。 1.職人養成では、職人になることを自ら望むことが特に大切であること(職人選択の自発性)、職人として生活を送り人生を全うする覚悟(職人としてのアイデンティティの確立)が必要である。 2.技能の習得に当たっては、言葉で教示する以前に師匠の技能を観察させ模倣させることから始まる(模倣学習)。弟子が技能を習得するのは、師匠のわざを盗むことにある。 3.製造過程の一部を、早期に弟子に分担させることを通して、製造に直接、関与させ、責任を感じさせる(状況に埋め込む学習)。 4.製造に関与させることは、弟子の技能習得に対する意欲を高める(達成動機)。 5.師匠のわざの模倣の後は、弟子がわざを自ら工夫し、改良するようにしむけていく。 6.技能習得がある程度の段階に到達したら、ことばによる教示を行い、より高度な技能習得の認知的理解を助ける(イメージ的指導言語、分析的指導言語、わざ言語の活用)。 7.優れた製造物を見分ける眼力を養う(視覚弁別学習) 8.日本における技能伝承は、師匠と弟子との暗黙の契約関係を結ぶことで出発する。そのため、家族内の伝承が多い。一方、ドイツのマイスター制度では、基幹学校(義務教育)を終了した15歳の段階で職業適性試験を受けさせてマイスターを目指すことを選択させ、就業しながら職業学校、専門学校を経てから資格試験合格者にマイスターを認定する。ドイツでは、このように伝統工芸技能の伝承が社会的、教育的制度として確立している。
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