大気汚染は私達の生活に深刻な影響を及ぼすとともに、人類の活動の所産である文化財にも多大な損傷を与えている。本研究は文化財の密集地である奈良盆地北部の文化財所在地12地点25ヶ所で、文化財に大きな損傷を与える二酸化イオウ、二酸化チッソ、塩化物イオンの濃度を測定するとともに、金属・染色布・顔料色彩の文化財サンプルを大気曝露して、大気汚染とサンプルへの影響の因果関係をつきとめ定量化を試み、また、東大寺大仏など屋内の文化財に沈着する大気汚染物質もあわせて採集・分析した。比較のために鹿児島県屋久島とレバノン・ティールでも同様の調査を行っている。 本年度調査データを検討すると、各観測点によって大気汚染濃度差があり、大気汚染濃度の高い地点ほど文化財サンプルの錆化・褪色は著じるしく、また屋内文化財につもる埃からも多量の大気汚染物質が検出された。今後も観測・分析データを集積・検討し、文化財の損傷を定量化するとともに、文化財保存環境基準を提示したい。
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