昨年に続き東大寺経庫(校倉)、東大寺大仏殿、正倉院、興福寺、春日大社、般若寺、元興寺、十輪院、平城宮跡、唐招提寺、薬師寺、奈良大学、一条高校の12地点26か所にトリエタノールアミン円筒濾紙を設置、一ヶ月間曝露した後、抽出して試料を調整しイオンクロマトグラフィーで分析して、二酸化硫黄・二酸化窒素・塩化物イオンの3種の酸性大気汚染物質の濃度を測定した。また、それぞれの観測点には温度・湿度用のデータロガ・自記温湿度計も設置し温湿度記録をとった。 さらに東大寺経庫(校倉)、興福寺、春日大社、般若寺、十輪院、平城宮跡、薬師寺、奈良大学の8地点8か所には銀・銅・鉛・錫・鉄の5種の金属板試料と朱・ベンガラ・緑青・群青・藍・黄土・白土など12色の顔料試料を百葉箱内で曝露して、色彩変化および金属に発生した錆びの組成分析を行って、大気汚染の影響を定量した。 また、奈良盆地、長野県の高原地帯(八ヶ岳山麓)、京都市街地、神戸市街地およびカンボジア・アンコールワット遺跡、タイ・バンコク等に所在する文化財の大気汚染影響調査を行った。 以上の観測およびデータの検討の結果、奈良の文化財所在地の二酸化硫黄の濃度はここ5年間ほどわずかな増減はあるもののほとんど変化はなく、二酸化窒素も同様に奈良の文化財所在地においては大きな変動はないものの、奈良公園・奈良町の限られた地域でのことではあるが、交通量の多い交差点では10〜20ppb、東大寺周辺では5ppbほど増加し、こうした局地的な大気汚染の増加が奈良の文化財所在地全体の大気汚染濃度を押し上げる懸念が生じている。塩化物イオンは10年前と現在を比較すると、3分の2〜2分の1に大きく減少している。ごみ収集、焼却の分別化の結果であるが、文化財環境としては好ましいものである。 新しく開始した劣化促進実験、海外の文化財の現状調査については収集データを分析中である。
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