研究概要 |
1.安定同位体比からの考察 北海道埋蔵文化財センターの協力により,道内の2遺跡(生渕2遺跡,対雁2遺跡)から出土した土器に付着した炭化物の炭素・窒素比(C/N)およびそれらの同位体比(δ^<13>C,δ^<15>N)の測定を依頼分析により行った。その傾向は土器の内外面で大きく異なり,外面に付着したものは内面に比べ小さなδ^<13>C値と高いC/N比を示した。この傾向は対雁2遺跡の試料に顕著であった。前年度までの成果から,東北地方北部で出土した試料,およびC4植物と考えられる例外的な試料を除き,土器付着炭化物のほとんどは-26‰付近のδ^<13>C値を示し,それより大きな値を示す試料中に,海洋リザーバー効果の影響が見られるものが含まれることがわかっている。今回示された土器内面に付着した炭化物のδ^<13>C値の分布も,内容物に海洋生物が用いられたことを示唆するものである。 2.AMS-C^<14>法からの考察 C/N比はセルロースを主成分とする植物で高く,アミノ酸を含む動物で低いことが予想される。前年度までの解釈では,土器外面に付着した炭化物は燃料材として用いられた陸上植物に由来し,-26‰に近いδ^<13>C値と高いC/N比を示す試料は海洋リザーバー効果の影響の少ないものとしてきた。ところが今回示された炭素14年代は,土器の内外面に関わらず,型式から予想される年代と比べ古い結果が得られた。生体を構成する有機高分子化合物のうち,脂質は^<12>Cに富む傾向があり,δ^<13>C値はアミノ酸より最大15‰近く小さいことが報告されている。土器外面に付着した炭化物の起源を海洋生物の脂質に求めれば,C/N比が高く,δ^<13>C値がやや小さいという傾向と調和する。加熱による脂質自体の炭化は困難と考えられるが,サケの加工場という遺跡の性格から,周辺にあった脂質の炭化物への吸着,あるいは燃料材に加えられた脂質からの油煙などの可能性が挙げられる。 3.GC-MSによる測定 ガスクロマトグラフ-イオントラップ型質量分析計により炭化物の組成分析を試みた。炭化物に含まれる脂質などの揮発成分は有機溶媒に溶出させる必要があるが,適切な条件の設定に手間取り十分な成果が得られなかった。すなわち特徴的なスペクトルは見いだせたものの,その同定には至らなかった。
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