平成15年度の野外調査では、いずれも旧石器時代遺跡である韓国慶尚北道の尚州新上里遺跡と居昌正莊里遺跡、全羅南道の和順道山遺跡で、割れ目の層準(年代)、割れ目内・外の堆積物、周辺の地形・地質を調査するとともに、室内分析用の不撹乱試料を含む試料を採取した。また、過去の周氷河地域の典型的な凍結割れ目現象であるアイスウェッジカストを、日本列島で数少ない密集地として報告されている北海道宗谷支庁猿払村において、割れ目の構造と割れ目充填物、および周囲の地層との関係を詳しく観察した。 韓国に於ける調査では、2〜4層準の割れ目が認められ、割れ目の規模および古土壌や風成堆積層の特徴から、その形成年代が最終氷期やそれ以前の氷期と関連すると考えられた。また、見かけが幅太く見えるが、割れ目自体はごく幅が狭くて灰色粘土が充填し、外側は白く脱色しており、さらにその外側には酸化鉄により褐色を呈する多くの割れ目があることを確認した。幅広く見える原因は割れ目を伝わった地下水の浸透により、微量元素が割れ目の外側に溶脱したものと考えられた。また、北海道では、最大で割れ幅が約30cm・長さ2.5m以上あるアイスウェッジのほか、小規模の割れ目を観察し、過去の季節的凍土地帯における割れ目形成に係わるいくつかの未報告現象があることを確認した。 室内研究では、割れ目充填物質と割れ目周囲の地層の微細構造を顕微鏡レベルで記載するための薄片作成は現在進行中である。また、韓国の地層中には、黄砂起源の石英粒が多数含まれることが明らかとなり、石英粒の含有率により割れ目の形成年代を氷期編年と比較検討し得ることを認めている。
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