野外調査では、韓国の著名な旧石器時代である京畿道全谷里遺跡をはじめ、南楊州好坪洞遺跡、驪州淵陽里遺跡、全北益山市射徳遺跡、慶南晋州市耳谷里遺跡で、割れ目の層準、割れ目内・外の堆積物、周辺の地形・地質を調査するとともに、粒度分析用の試料を採取した。また、昨年度、北海道宗谷支庁猿払村において観察した凍結割れ目を再調査するとともに、道北・道東地域の複数地点で割れ目の構造と割れ目充填物、および周囲の地層との関係を観察した。 全谷里遺跡で観察した割れ目は、暗色帯である暗黄灰色シルト質粘土層と暗赤褐色粘土層の2層準に発達し、両層準ともに黒灰色の極薄い粘土フィルムを充填物としていた。好坪洞遺跡、驪州淵陽里遺跡においても充填物の様子はよく似ていた。これら3遺跡は、昨年度に調査した韓国中南部の慶北、全南の諸遺跡より緯度が高く、割れ目現象に周氷河地域の影響がより色濃く見られると予想していたが、実際は大きな差異は認められなかった。一方、西海岸に近い射徳遺跡や南海岸に近い耳谷里遺跡と比較して、驪州や慶北の尚州と居昌、大邱などの比較的内陸にある地域では、割れ目の密度が高く、かつ著しい傾向があることが明らかとなった。また、全谷里遺跡で帯磁率測定を行い、暗色帯で帯磁率が高いことがわかった。 猿払村ではアイスウェッジとともに見つけた小規模の割れ目の構造について詳しく観察し直し、割れ目と並行する開口していない複数のフィッシャーを認めた。 室内研究では、割れ目充填物質と割れ目周囲の地層の微細構造を顕微鏡レベルで記載するための薄片作成を継続中である。また、黄砂起源と推定される石英粒の含有率により割れ目の形成年代を氷期編年と比較検討するための粒度分析も進めている。
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