旧石器の層位を撹乱する原因のひとつである地層の割れ目に関して、朝鮮半島のソイルウェッジ・カストと本州の乾裂痕、北海道の氷楔痕とを比較検討することにより、凍結割れ目と乾裂との構造・形成機構の相違と移行性を明らかにするために、この年度は大雪山で現世の凍結割れ目を観察し、室内で分析作業と解析を行った。 1.割れ目充填物と基盤層堆積物の粒度と組成 全羅南道の全南和順道山遺跡ほか2地点の試料を分析した。その結果、ほとんどの試料が砂とシルトに双峯性のモードを示すとともに、更新統最上位の割れ目付近で極細粒砂サイズ以下に球状石英をはじめとする球状鉱物が認められ、その含有率は半島の東から西へ顕著な増加傾向が認められた。さらに、AT火山灰に由来する火山ガラスが割れ目充填物に比較的多く含まれることが明らかとなった。これらのことは、球状鉱物が風成の黄砂に由来するものであること、また、更新統最上位の割れ目は最終氷期極寒期より前に形成されはじめていたことを示唆する。 2.割れ目の構造と形成要因 慶尚北道の尚州新上里遺跡ほかのソイルウェッジ・カストと大阪市長原遺跡の乾裂痕の不撹乱試料を固化し研磨して観察した。その結果、両地域の試料は現地で観察したように、割れ目の最上部付近を除けば充填物は雨水によるとみられる泥の薄層だけであり、ほとんど開口しなかったことが推定される。また、共に垂直方向の割れとともに水平方向の割れも観察された。この割れ目現象は活動層を伴う氷楔痕には見られない構造であり、周氷河現象の氷楔痕の主たる成因が凍結によるものであるのに対して、ソイルウェッジや乾裂は最終氷期の寒冷条件に支配されつつも、乾燥による収縮が主要な成因であったと考えられる。
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