研究概要 |
二酸化炭素濃度の上昇による海洋酸性化により全球でサンゴ礁の形成・石灰化が衰退することが憂慮されるとともに,地球温暖化に伴ってサンゴ礁形成海域が高緯度側へ拡大する可能性も指摘されている。日本周辺は緯度とともにサンゴ礁の規模が縮小し,分布が疎となる。このようなサンゴ礁形成の緯度勾配が明瞭にみられる地域は世界でも類をみない。本研究では,サンゴ礁の講造と形成に関する研究が希薄であった琉球列島北部・小笠原諸島の北限域サンゴ礁を主な調査地として,緯度の異なる4地域(種子島・馬毛島地域,吐喝喇列島,沖縄島北部,小笠原諸島)でボーリング調査等を実施し礁形成過程を明らかにした。 種子島・馬毛島地域の礁形成の特徴として,1)海面上昇からおくれた礁形成開始,2)短期間の礁形成(1000〜2000年程度),3)遅い礁上方成長速度(1〜2m/ka)を挙げることができる。このような短期間の礁形成が異なったタイミングで,異なった海岸で発生しており,高緯度限界における礁形成の特徴・特異性が浮かび上がってきた。本研究で得られた時相のずれは,礁形成が場所固有の現象であり隣接する地域で同時に同じことが起こるとは限らないことを示唆している。今後の温暖化にともなって北限域で新たに形成されるサンゴ礁があるとすれば,地質学的にきわめて短期間で形成されることが予想される。ただし,その時期や場所については固有の要素が強いと考えられる。 小笠原諸島のサンゴ礁堆積構造に関する研究は本研究が端緒であるが,琉球列島北部とはサンゴ礁地形や堆積過程が異なることが明らかになった。サンゴ礁形成における小笠原諸島の独自性を指摘することができ,同諸島での今後のさらなる研究が期待される。
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